遺産分割手続き

第1 遺産分割手続き

1 遺産分割手続き

相続開始と同時に、被相続人の財産(遺産)は相続人に承継されます。

相続人が一人の場合は、遺産はその相続人の単独所有になり、分割の問題は生じません。しかし、相続人が複数いる場合は、遺産の共同所有関係が生じ、各共同相続人に分属させる手続きが必要となります。この手続きが遺産分割手続きです。

この遺産分割手続きとしては、「遺言による指定分割」「協議による分割」「調停・審判による分割」があります。

2 遺言による指定分割

被相続人は、遺言で、遺産分割の方法を定めることができます。例えば、「妻には家と預金の3分の1、長男・長女にはそれぞれ預金の3分の1を相続させる」というように各相続人が取得する遺産を具体的に定めることができます。

この場合には、遺言で指定された遺言執行者によって、遺言に従って分割されます。

3 協議による分割

共同相続人全員の協議(合意)により遺産を分割する手続きです。

⑴ その協議の前提として、相続人の確定、遺産の範囲・評価の確定をする必要があります。

⑵ 「全員」が集まって協議する必要はありませんが、相続人の数が多い、遺産が不動産や証券など多岐に渡る、相続人同士が疎遠・仲が悪い、相続人の中に行方不明者がいる等の事情があると、遺産分割協議がまとまらない、協議が出来ないことがあります。

⑶ また、「協議(合意)」するので、認知症などで遺産分割能力がない相続人がいる場合は、成年後見人の選任手続きなどをしないと「協議」ができません。

⑷ 遺産分割協議がまとまった場合、その協議内容を記載した遺産分割協議書を作成する必要があります。この協議書を作成しないと、被相続人名義の不動産の名義変更、預貯金の解約手続きなど、相続手続きができません。

4 調停・審判による分割

⑴ 遺産分割協議がまとまらない、出来ない時は、相続人の誰かが、家庭裁判所へ遺産分割の調停の申立てをします。
この調停は、家庭裁判所の調停員が、中立の立場で、遺産分割協議の斡旋をしてくれます。調停が成立した場合に作成される調停調書には確定した審判と同一の効力があります。

⑵ 調停が不成立になった場合、審判手続きに移行します。審判では、審判官(裁判官)が、当事者双方から提出された書類・主張を確認の上、遺産の種類・性質、相続人の年齢・職業・心身の状態・生活状況等、「一切の事情を考慮」して、遺産分割の内容やその方法を決定します。

なお、この審判に対しては、異議を申し立てることができます。

第2 遺言を書く必要性

1 遺言がない場合のデメリット

⑴ 遺言がない場合、共同相続人全員の協議(合意)により遺産を分割する必要があります。民法は、法定相続人の範囲、その持分割合は定めていますが、その分割方法については「一切の事情を考慮」するとしか定めていません。そのため、共同相続人間に経済的格差がある場合、遺産が不動産や証券など多岐に渡る場合など「争族」となってしまうこともあります。

⑵ また、相続人の数が多い、相続人が海外など遠方に住んでいる、相続人間の仲が悪い、行方不明者の相続人が居るなどの事情がある場合、遺産分割協議が進まないこともあります。

⑶ 被相続人に子がいない場合、相続人は、配偶者の他、被相続人の両親、兄弟姉妹となりますが、これらの相続人が被相続人とその配偶者が築いてきた遺産を相続することに納得できないと感じることがあります。

⑷ 相続人間に複数の子がいて、その内の一人が障害を持っている子である場合、複数の子の相続割合は平等なので、被相続人が、その障害を持っている子に特別な配慮したいと考えても、確実に実現することができません。

⑸ 被相続人が、生前にお世話になった非相続人に遺産を残したいと考えていても、被相続人の意思を実現することが確実であるとは言えません。相続人の考えに左右されてしまいます。

よく、遺言書が必要ない理由として「まだまだ元気だ!」「家にはお金がない」「家の家族は仲良しだ」等が挙げられます。しかし、先に述べた「遺言がない場合のデメリット」は,こらの理由とは関係なく起こります。遺言書があれば、このようなデメリットを回避することができます。

遺言書の主な種類ですが、「公正証書遺言」「自筆証書遺言」があります。

 

⑴ 公正証書遺言

この遺言は、原則公証人役場で、2名の証人の前で遺言内容を公証人の前で申し述べ、公証人が遺言書を作成するものです。
証人が必要、費用がかかるというデメリットがありますが、公文書として強力な効力を持つ、家庭裁判所での検認手続きが不要である,相続開始後すぐに遺言の内容を実行できる、原本は公証人役場に保管されるため紛失・変造の心配がないというメリットがあります。

⑵ 自筆証書遺言

ア 遺言者が自筆で遺言書を作成し、日付・氏名を記入の上,押印して作成する遺言書です。なお、令和元年1月から「財産目録」を別紙として添付する方式をとれば相続財産を自筆で書くことは不要となり、パソコン・代筆・通帳や不動産登記簿謄本のコピーを別紙1,別紙2として添付すればよくなりました。ただ、偽造防止のために「財産目録」のすべてのページに署名・押印が必要です。
手軽でいつでもどこでも書ける、費用がかからない,誰にも知られずに作成できるというメリットがありますが、形式の不備で無効になりやすい、紛失や偽造・変造・隠匿のおそれがある、家庭裁判所での検認手続きが必要であるというデメリットもあります。

イ 自筆証書遺言保管制度

令和2年7月から法務局で自筆証書遺言を預かってもらえる制度が発足しました。この制度を利用すれば、自筆証書のデメリットである紛失や偽造・変造・隠匿のおそれを解決でき、家庭裁判所での検認手続も不要となります。
ただ、法務局の職員は、自筆洋書遺言の最低限の形式面はチェックしますが、遺言の内容についての相談、遺言の有効性の保証などをするものではありません。

第3 遺言の書き直し

1 遺言の撤回

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、遺言の全部又は一部を撤回することができます。すなわち、以前作成した遺言と客観的に抵触する内容の遺言が後に作成した場合、抵触する部分については、以前の遺言は後の遺言により撤回したものとみなされます。

2 自筆遺言証書の加除訂正

先に、自筆遺言証書のデメリットとして「形式の不備で無効になりやすい」ということ挙げました。民法に従って、自筆遺言証書の加除訂正をしていないと無効となってしまいます。ただ、間違ったら、加除訂正ではなく、新たに遺言書を作成しなおした方が無難です。

加除訂正の手順は次のとおりです。

⑴ 訂正箇所を2本の線で消し,変更する文字を記入する。
⑵ 訂正箇所に押印する(遺言書の押印と同一にする)
⑶ 訂正箇所の欄外に「この行,何文字削除・何文字加入」と記入するか,遺言書の末尾に「何行目「●●●」とあるのを「〇〇〇」と訂正した」と記入する。
⑷ 訂正の記入後に署名する。

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