戦前の民法では家督相続の制度があり,戸主の長男がすべての財産を相続していました。
しかし,戦後の民法は家制度を廃止し戸主たる長男が被相続人の財産をすべて相続する制度を廃止しました。
そして,相続分が民法に定められ,被相続人の子供達は平等の割合で相続をすることになりました。
従いまして,現在では「自分は長男だから親の遺産はすべて相続する権利がある。」というような主張はできなくなりました。
このようなことを長男が述べている限りは相続人間で円滑な遺産分割の協議ができません。
この場合,長男と話しあいはできませんので,弁護士に依頼し,家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることになります。
又,被相続人が遺言書を作成し,「自分の遺産を長男にすべて相続させる。」というような遺言がなされることは多々ありますが,この場合も,遺留分の制度が民法に規定されており相続人であれば最低限の遺産をもらう権利が保障されていますので泣き寝入りすることはありません。
民法の中で認められている遺留分侵害額請求をすることによって,一定程度の遺産を相続することが出来ます。
今でも被相続人の中には,長男に家業を継がせたいとうの理由から,すべての遺産を相続させたいという考え方を有している方がいます。
複数の相続人がいる場合,すべての遺産を長男に相続させることは民法の規定から不可能ですが,しかし上記のような「自分の遺産を長男にすべて相続させる。」旨の遺言書を作成することによって。遺産の多くを長男に相続させることはできます。
他の相続人の遺留分を侵害する遺言は無効ではなく,他の相続人が遺留分侵害額請求をしなければ,遺言者の遺言したとおりになります。
遺言書を作成するにあたりましては,長男のみに遺産を独占させるのではなく,他の相続人の遺留分にも留意し,遺留分を侵害することのないよう遺言をすることがベターですが,実際にはそうなっていない遺言書が作成されることが多いです。
遺留分を侵害している場合,民法が改正され2019年7月1日以降は遺留分侵害額,すなわち金銭の請求に変わっています。
それ以前は遺留分の割合に応じて,その持分で請求することになっており,例外的に遺留分を侵害している相続人から遺留分を侵害された他の相続人に代償金という金銭を提供することによって不動産や株式が分散されることが防止されていました。
今は遺留分侵害額という金銭のみを請求できる制度になっており,「不動産や株式等のすべての遺産を長男に相続させる。」という遺言書を作成しておけば,不動産や株式そのものは適法に相続でき,被相続人がしていた不動産の賃貸業の経営,農業の経営,会社の経営は支障なく承継させることができるということになります。
もっとも,この場合不動産や株式の価値が高いと金銭をたくさん支払わなければならないデメリットもあります。
このように長男に遺産を独り占めされても,この状態を回復する制度はありますが,1人でこのような事態に対処するこることはきわめて難しいと思います。
この場合,弁護士に相談すると弁護士は相続の専門家として次のように対応してくれます。
- ・遺言書があるかどうかの調査
- ・あったとして,その遺言書が有効であるか否かの判断
- ・遺言書の無効を確認するための医師の作成した被相続人のカルテ等の調査
- ・預貯金などの遺産内容の調査と,銀行等への取引履歴の開示請求
- ・開示された銀行等の取引履歴の内容を精査して,使い込みがあったか否かの調査
こうした調査をした後に弁護士は遺言無効の調停や訴訟,使い込まれたお金の請求の調停や訴訟,遺留分侵害額請求の内容証明郵便の作成等をしてくれます。
相続人間で話しあうとお互い感情的になり遺産分割の協議もできないことになりますので,一人で悩まず,相続関係の法規や判例,審判例に詳しい弁護士に早めに相談することがベターだと考えます