1.前妻との間の子にも相続権はありますか。
亡くなった夫が前妻との間に子どもがいた場合,その子どもにも民法上相続権があります。
亡くなった夫とその子どもに血のつながりがあり,ただそのことの故に相続権があります。
血のつながりがなくても亡夫に養子がいた場合にも,その養子にも相続権が認められます。
共に法律上の親子関係があることに違いがないからです。
他方,前妻はすでに亡くなった夫とは離婚しており,配偶者ではなく,相続権はないのです。
2.離婚歴のある夫が亡くなった際,何に注意することが大切ですか
夫に離婚した前妻との子どもがいる場合,その子どもにも夫の遺産を渡したくないと考える方はたくさんいます。
感情的にはそのように考えがちですが,相続そのものの根拠が被相続人との血のつながりですから,法律的にはそのような考えは成り立つ余地がありません。
そのような考え方は捨て去って前妻との子どもも遺産分割協議に参加させて,円満に遺産分割協議を成立させることが何よりも大切です。
前妻との間の子どもとの遺産分割協議はうまくいかないことが多いです。
当事務所の経験からして,次のような行動をとることが円満な解決への道になります。
(1)前妻の子どもに丁寧に対応すること
亡夫の生前から前妻の子どもと親しく交際してきた場合には別ですが,そうでない場合よそよそしくなりがちです。
遺産分割協議の合意にはまず,このよそよそしさを取り除き,相手の気持ちになって相手の今までの境遇を理解して丁寧に対応することが何よりも大切です。
(2)相続財産を包み隠さずすべて明らかにすること
前妻の子どもには亡夫の遺産を渡したくないと考えている相続人の中には亡夫の遺産の一部しか開示せず,すべてを明らかにしない方もいます。
今,相続人であれば単独で銀行等に対し亡夫の預金の存在や取引履歴を開示させることができますし,不動産の有無なども不動産登記事項証明書や名寄帳を取り寄せれば,すぐにわかることです。
初めから亡夫のすべての遺産を前妻の子どもに知らせないで後からもっと遺産があると分かった場合,前妻の子どもの不信感は強まり話しあいでの解決は難しくなることでしょう。
亡夫の子どもには相続権があり亡夫の遺言でもない限り民法上の相続権は平等です。そうであれば,初めからしっかりとした遺産調査をし,その上で遺産目録を作成し,それを前妻の子どもに交付し丁寧な説明をすべきです。
そうした中で信頼関係が築かれ円満な解決ができたら被相続人である亡夫も喜ぶものと思われます。
(3)協議が成立しない場合遺産分割の調停の申立てをする
しっかりと前妻の子どもに対応しても話しあいが成立しない場合があります。
こうした場合,家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをし,家庭裁判所の裁判官,調停委員の関与のもとに遺産の分け方を決める必要があります。
話しあいが成立しないからといって,そのままにしていたらいつまでも解決しませんので,弁護士に頼み調停の申立てをすることがベターだと考えます。
(4)前妻の子どもが未成年の場合
前妻の子どもが未成年の場合,未成年の子どもが遺産分割協議に加わることはできません。子どもの法定代理人(親権者あるいは成年後見人)が子どもに代わって遺産分割協議に加わって合意する必要があります。
3.被相続人に対してお願いすべきこと
亡夫に前妻との間に子どもがいる場合,夫死後の相続をめぐるトラブルを防止するため,遺言について遺言書を残してもらうことを夫に頼むことも必要です。
前妻との子どもに愛情を有している夫も多いと思いますので,この場合夫が遺留分程度の遺産を分けたいと言っている場合,これに反対しない方がよいと思います。
遺言書の中に自分の相続分が何もないと知った前妻との子どもは他の相続人に対して,遺留分侵害額請求をしてくるでしょうから,初めから遺留分額を考慮して遺言書を作成することが賢明でしょう。
遺言書は弁護士に頼み,公正証書遺言にすることがトラブル防止のめんで,ベターだと思います。
4.この問題への当事務所の対応
離婚した前妻との子どもとその後再婚の妻との間に生まれた子どもとの間にはとかく感情的な対立が起きることが通常です。
前妻との子どもには「父親に何も親らしいことをしてもらったことがない。」と悪感情を有している方もいますし,再婚の妻やその間の子どもは「ほとんど会ったことがない前妻の子どもに遺産を渡したくない。」と考える方も多いです。
遺産分割の協議に際し,再婚の妻やその子どもが前妻の子どもに連絡しても,連絡が取れない場合もありますし,連絡が取れても一方的に無視される場合があります。
この場合,遺産分割協議はストップしてしまうことになります。
(1)この場合の当事務所のできること
まず,当事務所の弁護士が前妻の子どもと連絡を取り,遺産分割の協議をあちらに代わってします。通常は相手方に対し文書を郵送し,皆様の考えている意見をお伝えします。
弁護士が代理人となると,無視する方もいますが,多くの場合何らかの連絡があります。そして交渉に進み,円満に解決することも少なからずあります。
弁護士は相手方の所在が分からない場合でも,戸籍事項証明書や,住民票を入手し,それを手がかりに住所を確定し,そこに文書を送り,話しあいをすることになります。
(2)話し合いができない場合の当事務所の対応
弁護士が代理人となって誠意を尽くしても遺産分割協議が成立しない場合があります。この場合当事務所では,家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをし,そこで話しあいを成立させることになります。調停でも成立しない場合には,審判に移行し,そこで裁判官が遺産分割の内容を決めてくれるので,調停して遺産分割が成立することが多いです。
(3)遺言公正証書作成に関すること
当事務所では,被相続人の遺産をめぐるトラブルを防止するために公正証書による遺言を作成することをお勧めしています。
本件のような場合でも亡夫に生前に遺言公正証書を作成しておいてもらえれば,再婚の妻やその子どもも気苦労をすることはなかったものと思います。
当事務所では被相続人からご自分の遺産をどのように分けたいかを聴取し,そのご意見に沿った遺言公正証書を作成し,公証人役場に取り次いでいます。
遺言公正証書を作成する場合,証人2人が必要になりますが,当事務所の弁護士が証人となることができます。
又,被相続人の生前の思いが死後もしっかりと実現すべく,当事務所の弁護士が遺言執行者になることを承諾しています。
このように当事務所は被相続人の意思がしっかりと相続人に伝えられ争族が起こらないことを心がけていますのでお気軽にご相談いただけると有難く存じます。